腕立て伏せを始める段階づけ
難しい形に急がず、台や壁を使ったやさしい形から進める。 無理をしない体づくり研究所が、生活に合わせた考え方と最初の一歩を解説します。
腕立て伏せは、胸、肩、腕を中心に、姿勢を保つための体幹も使う自重トレーニングです。器具がほとんど必要なく、自宅でも取り組みやすい一方、「床で何回できるか」だけを基準にすると、初心者には負荷が高くなりすぎることがあります。
最初から一般的な床での腕立て伏せにこだわる必要はありません。壁や安定した台を利用すると負荷を下げられ、自分に合った難易度から動作を練習できます。大切なのは、難しい形を無理にこなすことではなく、姿勢を大きく崩さず繰り返せる段階を選び、少しずつ進めることです。
腕立て伏せの目的を「回数」だけにしない
腕立て伏せでは、肘を曲げ伸ばししながら、自分の体を押す動作を行います。主に上半身の筋力づくりに利用できますが、動作中は頭から足までの姿勢を保つ必要があるため、腹部や背中なども使います。
初心者の場合、最初の目標を「10回、20回できるようになる」と決めるより、「無理のない姿勢で数回繰り返せるようになる」と考えたほうが進めやすいでしょう。
回数を増やそうとすると、腰が大きく反ったり、肘の曲げ伸ばしが極端に小さくなったりすることがあります。それなら、負荷を一段階下げて動きを整える方法もあります。
腕立て伏せは競技ではありません。床でできないから効果がない、膝をついたら意味がない、と考える必要もありません。現在の筋力に合わせて負荷を選べること自体が、自重トレーニングの利点です。
まずは壁を使った腕立て伏せから始める
運動習慣がほとんどない人や、床での腕立て伏せが難しい人は、壁を利用すると始めやすくなります。
壁の前に立ち、両手を肩幅程度にして壁につきます。手の位置は、おおむね胸から肩付近の高さを目安にします。足を少し後ろに引き、体をまっすぐに保ちながら肘を曲げて、胸を壁へ近づけます。その後、壁を押して元の位置へ戻ります。
足を壁から離すほど、一般的には体を支える負荷が増えます。反対に、壁の近くに立てば負荷を軽くできます。
まずは「何回できるか」を試すより、数回行っても動作に余裕が残る位置を探します。肘を曲げたときに肩周辺へ強い違和感が出る、姿勢を維持できないといった場合には、無理に続けず条件を見直します。
次は安定した台を使って負荷を調整する
壁での動作に慣れてきたら、手を置く位置を少し低くすると負荷を上げられます。丈夫なカウンター、固定された台などを使い、斜めになった体を支えながら腕立て伏せを行う方法です。
基本的な動作は壁の場合と同じです。
頭から足までの姿勢を大きく崩さない
手を台についたら、足を後ろへ引きます。頭、背中、腰、脚が大きく折れ曲がらない姿勢をつくり、その状態を保ちながら肘を曲げます。
疲れてくると、腰だけが下がったり、お尻だけが高く上がったりしやすくなります。姿勢を維持できなくなったら、「筋力が足りない」と決めつけるのではなく、その日の終了目安にしたり、より高い台へ戻したりするとよいでしょう。
台の高さを変えて段階づける
一般的には、手を置く位置が低くなるほど、上半身で支える体重の割合が増えて負荷も高くなります。
たとえば、
- 壁
- 高めの安定した台
- それより低い安定した台
- 床
というように、少しずつ条件を変えられます。
ただし、ぐらつく家具や滑りやすい台は適していません。運動中に動いたり倒れたりしない、十分に安定した場所を選ぶことが優先です。
膝をついた腕立て伏せも選択肢になる
床で行う腕立て伏せへの移行方法として、膝を床につける方法もあります。
手と膝で体を支え、上半身から膝までの姿勢を大きく崩さないようにしながら肘を曲げ伸ばしします。足先まで伸ばした腕立て伏せより、支える体重を小さくしやすい方法です。
ただし、台を利用した腕立て伏せと膝つき腕立て伏せのどちらが適しているかは、人によって異なります。必ず「壁→台→膝つき→通常」という順番で進まなければならないわけではありません。
台を使ったほうが動作しやすいなら、その方法を続けても構いません。段階づけでは、決められた順番よりも、安定して動けるかどうかを重視します。
床での腕立て伏せは急いで目指さない
一般的な腕立て伏せでは、両手と足先で体を支えます。初心者にとっては意外に大きな負荷になるため、最初に試して1回もできなくても珍しいことではありません。
床で行う段階になったら、最初から多くの回数を目指さなくても構いません。姿勢を保てる範囲で数回行い、余裕を残して終了する方法があります。
「あと1回できそうだから毎回限界まで行う」という進め方が必要なわけではありません。特に始めたばかりの時期は、翌日に強い疲労が残るほど行うより、次回も取り組める程度の量から始めるほうが継続しやすくなります。
負荷は回数以外でも調整できる
腕立て伏せの負荷調整というと、回数を増やすことだけを考えがちですが、ほかにも方法があります。
同じ段階で動作を安定させる、少し低い台へ変える、セット数を少し増やすなど、複数の進め方があります。すべてを一度に増やす必要はありません。
たとえば、これまで高い台で行っていた人が低い台へ移るなら、同時に回数まで増やさなくてもよいでしょう。難易度を上げた日は回数を減らし、新しい動きに慣れてから徐々に増やすという考え方もできます。
調子には日による差があります。睡眠不足や仕事の疲れが強い日に、前回と同じ内容を必ず達成しようとする必要はありません。台を高くする、回数を減らす、その日は休むといった調整もトレーニングの一部です。
毎日行わなくてもよい
筋力トレーニングは、たくさん行えば行うほどよいとは限りません。慣れていない人ほど、運動後に筋肉の張りや疲労を感じることがあります。
始めたばかりなら、同じ部位を毎日強く追い込むことにこだわらず、回復具合を見ながら間隔を空けます。
軽い疲労感がある程度なのか、普段の生活にも影響するほど疲れているのかでも判断は変わります。予定の日だからといって必ず行うのではなく、その日の状態に合わせて量を調整しましょう。
腕立て伏せだけを大量に繰り返すより、ウォーキングやスクワットなど、別の動作と組み合わせながら無理のない運動習慣をつくる方法もあります。
痛みを我慢して続けない
筋肉を使った疲労感と、関節などに生じる痛みを同じものとして扱わないことが重要です。
腕立て伏せでは手首、肘、肩などに負担を感じる場合があります。痛みが出ているのに「鍛えれば治る」「フォームを直せば問題ない」と自己判断して続けることは避けましょう。
痛みの原因をこの記事だけで判断することはできません。痛みが強い、長く続く、腫れや動かしにくさがある、日常生活にも支障があるといった場合には、運動を中断し、必要に応じて医療機関などへ相談してください。
また、持病がある人、服薬している人、妊娠中・産後の人などは、一般的な運動方法がそのまま適するとは限りません。運動について制限や指示を受けている場合には、それを優先してください。
「できる形を繰り返す」ことから始める
腕立て伏せを始めるときに重要なのは、最初から床で行えることではありません。
壁なら楽にできるのであれば、まず壁から始めれば十分です。壁が簡単になれば台へ移り、台で安定してできるようになったら、さらに少し負荷を上げます。床での腕立て伏せまで進んだ後でも、疲れている日は台を使うという選択ができます。
トレーニングの段階は、一方向に進み続けなければならないものではありません。体調や生活状況に合わせて、難易度を上げたり下げたりして構いません。
「一番難しい腕立て伏せができるか」ではなく、「現在の自分が安全に繰り返せる形はどれか」を基準に選ぶことが、長く続けるための出発点になります。