背中を動かす習慣を作る
引く動きを生活に合わせ、肩や首に無理が出ない形を選ぶ。 無理をしない体づくり研究所が、生活に合わせた考え方と最初の一歩を解説します。
背中は「強く鍛える」より、まず動かす習慣から
背中の筋肉は、腕を後ろへ引く、肩甲骨まわりを動かす、姿勢を支えるといったさまざまな動作に関わっています。しかし、日常生活ではパソコンやスマートフォンを見る時間が長くなり、腕を前に出した姿勢が続くこともあります。そのため、運動習慣がない人が背中を動かそうとしても、どこを使っているのか分かりにくいことがあります。
初心者が背中の運動を始めるときは、最初から重いダンベルや高負荷のマシンを使う必要はありません。大切なのは、肩や首に余計な力を入れず、「引く動き」を無理なく繰り返せる方法を見つけることです。
背中を動かす目的も、筋肉を大きくすることだけではありません。普段あまり行わない方向へ腕や肩まわりを動かす機会をつくり、体を動かす習慣の一部にすることにも意味があります。
背中の運動では「引く動き」が基本になる
筋力トレーニングでは、腕立て伏せのように何かを押す動きがある一方で、背中では自分のほうへ何かを引く動きがよく使われます。
たとえば、次のような動きがあります。
- トレーニングチューブを体のほうへ引く
- ダンベルなどを持って肘を後方へ引く
- ジムのマシンでハンドルを手前へ引く
- 上から下へバーを引く
- 自分の体を固定されたバーなどへ近づける
種目によって使われる筋肉や負荷のかかり方は異なりますが、初心者の段階では細かい筋肉の名前を覚えることより、「肩をすくめたまま無理やり引いていないか」「腕だけで急いで動かしていないか」といった点を確認するほうが実践的です。
背中の筋肉を意識しにくくても、それだけで運動が失敗しているとは限りません。正しい感覚には個人差があります。まずは軽い負荷で安定した動作を繰り返せることを優先しましょう。
自宅では軽い負荷から始める
チューブを使ったローイング
自宅で始めやすい方法の一つが、トレーニングチューブなどを使って手前へ引く運動です。
チューブを安全に固定し、両手または片手で持ちます。腕を前方へ伸ばした位置から、肘を後ろへ運ぶようにゆっくり引き、再び元の位置へ戻します。
このとき、勢いをつけて引く必要はありません。肩が耳に近づくようにすくんだり、上半身を大きく反らせたりする場合は、負荷が強すぎる可能性があります。
チューブは製品によって抵抗が大きく異なります。また、固定方法が不十分だと外れる危険があります。使用前に破損がないか確認し、メーカーが想定していない場所への固定は避けましょう。
軽い重りを使う方法
ダンベルなどを使ったローイングもあります。片手と片膝などを安定した台で支え、反対側の腕で重りを引く方法が一般的です。
ただし、初心者の場合は「重いものを持ち上げること」そのものが目的になりやすいため注意が必要です。重すぎると、体をひねったり反動を使ったりして動作を補いやすくなります。
最初は軽い重さから始め、動きをコントロールできる範囲で行います。家庭にある物を重りとして使う場合も、握りにくい物や落とすと危険な物は避けたほうが安全です。
ジムではマシンを利用する方法もある
ジムには、座った姿勢でハンドルを手前へ引くローイング系のマシンや、上方からバーを引くマシンなどがあります。
マシンは動く軌道がある程度決まっているため、フリーウエイトより扱いやすいと感じる初心者もいます。ただし、座席やパッドの位置が体格に合っていなければ、必ずしも動きやすいとは限りません。
初めて使う機器では、まず軽い設定で動きを確認します。調整方法が分からない場合は、施設のスタッフに器具の使用方法を確認するのも一つの方法です。
重さを増やすことを急ぐ必要はありません。最後まで安定した姿勢で動かせることを基準にします。
肩や首に無理が出ない形を探す
背中の運動をすると、「背中より首や肩ばかり疲れる」と感じる人もいます。原因を一つに決めつけることはできませんが、負荷が強い、肩をすくめている、動作の範囲を広げすぎているなど、運動の方法が影響している場合があります。
まず試しやすいのは、負荷を軽くすることです。それでも動かしにくければ、別の種目へ変更して構いません。
たとえば、上から引く動きでは肩まわりに違和感があるものの、前から手前へ引く動きなら行いやすい人もいます。反対の場合もあります。特定の種目を必ず行わなければならないわけではありません。
「背中を鍛えるにはこの種目しかない」と考えず、自分が無理なく繰り返せる動きを選ぶことが継続につながります。
運動中に明らかな痛みが出る場合は、そのまま続けないことが大切です。痛みの原因を自己判断で決めつけたり、運動だけで改善させようとしたりせず、症状が続く場合や強い場合は医療機関などへの相談を検討してください。
回数より、余裕を残して終える
初心者は「何回やればよいか」が気になりやすいものですが、適切な回数は種目、負荷、体力、経験によって変わります。
最初は、フォームを保ったまま数回から十数回程度行えるような軽い負荷を選び、余裕を残して終えても構いません。決めた回数を達成するために姿勢を崩して続ける必要はありません。
翌日に強い疲労が残ったり、日常生活に支障が出たりするほど追い込むことも、習慣づくりの段階では必要ありません。
負荷を高めたいときは、一度に多くを変えるのではなく、
- 回数を少し増やす
- セット数を少し増やす
- チューブの抵抗を少し強くする
- 重りを少し重くする
- 動作を丁寧にする
といった要素から一つずつ調整すると、自分に合った負荷を探しやすくなります。
毎日鍛えるより、休むことも習慣に含める
筋力トレーニングでは、運動した時間だけでなく休息も重要です。同じ部位に強い負荷を毎日かけ続ける必要はありません。
始めたばかりの時期は、「昨日かなり疲れたから今日は軽くする」「背中の筋力トレーニングは休んで散歩をする」といった調整をして構いません。
一方で、背中を動かす習慣そのものは、筋力トレーニングだけに限定する必要はありません。仕事の合間に立ち上がって腕を動かしたり、肩まわりを無理のない範囲で動かしたりすることも、日常の活動量を増やすきっかけになります。
睡眠不足や強い疲労を感じている日は、予定通りのトレーニングをこなすことより休息を優先する選択もあります。
「短くてもやる」仕組みをつくる
背中の運動は、見えにくい部位を動かすため、腕立て伏せやスクワットより習慣化しにくいと感じる人もいます。その場合は、生活の中の決まった行動と組み合わせる方法があります。
たとえば、
- 帰宅後にチューブを数回引く
- ジムで最初の種目として軽いローイングを行う
- 上半身を鍛える日に押す運動と引く運動を一つずつ行う
といった形です。
最初から長いメニューを作るより、「今日は一種類だけでもよい」としておくほうが続けやすい場合があります。慣れてから種目や量を増やせば十分です。
運動記録も細かくする必要はありません。「やった日」「使った重さ」「おおよその回数」程度を残しておくだけでも、急に負荷を上げることを防ぐ材料になります。
体調や状況に合わせて無理をしない
妊娠中、持病がある場合、服薬中の場合、過去に肩・首・背中などをけがしたことがある場合は、一般的なトレーニング方法がそのまま適しているとは限りません。運動の可否や制限について不安がある場合は、医師などの専門家へ相談してください。
また、背中の運動を体重減少のためだけに考える必要はありません。特定の筋力トレーニングを行えば特定の場所の脂肪だけが減る、と単純に考えることはできません。
食事を極端に減らしたり、短期間で体重を落とそうとしたりしながら激しい運動を増やす方法も避けたいところです。運動、食事、睡眠などをまとめて考え、長く続けられる範囲で調整していきます。
背中を動かすことを特別な課題にしない
背中のトレーニングは、難しい種目や重い重量から始めなくても構いません。軽いチューブを引く、マシンを軽い設定で動かすなど、「引く動き」を生活の中に一つ加えるところから始められます。
大切なのは、肩や首に無理が出る方法を我慢して続けることではなく、自分の体格や体力に合う動きを選ぶことです。負荷を上げるときも一段階ずつにし、疲れているときには休む余地を残します。
背中を動かす習慣は、一度のきついトレーニングで完成するものではありません。負担の少ない形で繰り返し、「これなら続けられる」と思える方法を日常に残していくことが、初心者にとって現実的な第一歩です。