鉄を含む食品を知る入口
必要量の個人差を踏まえ、症状がある場合は自己判断で補充しない。 無理をしない体づくり研究所が、生活に合わせた考え方と最初の一歩を解説します。
鉄は体の中で何をしているのか
鉄は、体に必要なミネラルの一つです。代表的な役割は、赤血球に含まれるヘモグロビンの材料となり、酸素の運搬に関わることです。そのほかにも、さまざまな酵素の働きなどに関係しています。
鉄が不足すると貧血につながることがありますが、「疲れやすい」「息切れがする」「集中しにくい」といった感覚だけで鉄不足と判断することはできません。こうした症状には睡眠不足、感染症、心肺機能の問題、ほかの栄養素の不足など、さまざまな原因が考えられるためです。
また、鉄は多く取れば取るほどよい栄養素でもありません。必要量には個人差があり、食生活だけでなく、年齢、月経の有無、妊娠、出血、病気などによっても状況が変わります。まずは「鉄が多い食品を大量に食べる」のではなく、どのような食品から取れるのかを知り、普段の食事の中で無理なく組み合わせることから考えてみましょう。
鉄を含む代表的な食品
鉄は肉や魚だけでなく、大豆製品や野菜などにも含まれています。特定の食品だけに頼る必要はありません。
身近な食品としては、次のようなものがあります。
- 赤身の肉やレバーなどの肉類
- カツオ、マグロなどの魚類
- アサリなどの貝類
- 納豆、豆腐などの大豆製品
- 小松菜などの青菜
- 卵
- 鉄を含む穀類や加工食品
食品によって含有量は異なり、同じ種類の食品でも部位や調理方法などによって差があります。そのため、「この食品を毎日食べれば十分」と単純には決められません。
特にレバーは鉄を多く含む食品として知られていますが、鉄以外の栄養素も多く含みます。大量に食べ続けることが適しているとは限らないため、鉄を取るためだけに特定食品へ偏る必要はありません。妊娠中など、栄養素の摂取に特別な注意が必要な時期には、自己判断で大量に食べるのではなく医療専門職などに確認することが大切です。
「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」の違い
食品に含まれる鉄は、大きくヘム鉄と非ヘム鉄に分けて説明されることがあります。
動物性食品に多いヘム鉄
ヘム鉄は、肉や魚などの動物性食品に含まれています。一般に、植物性食品に多い非ヘム鉄より体内に吸収されやすいとされています。
ただし、だからといって肉だけから鉄を取る必要はありません。肉や魚にはたんぱく質なども含まれる一方、種類や料理によっては脂質や塩分の取り方にも影響します。鉄だけを見るのではなく、食事全体で考えることが重要です。
植物性食品に多い非ヘム鉄
豆類、野菜、穀類などには非ヘム鉄が含まれています。非ヘム鉄は食事の組み合わせによって吸収のされ方が変わりやすいという特徴があります。
植物性食品には鉄だけでなく、食物繊維やビタミン、その他のミネラルなども含まれます。非ヘム鉄だから価値が低いということではありません。肉や魚をあまり食べない人でも、大豆製品や野菜、穀類などを組み合わせて食事全体を整えることができます。
食べ合わせを少し工夫する
鉄、とくに非ヘム鉄は、ほかの食品と一緒に食べることで吸収されやすさが変わります。
よく知られているのが、ビタミンCを含む食品との組み合わせです。たとえば、納豆や豆腐などの大豆製品に野菜や果物を合わせるなど、特別な献立を作らなくても日常の食事で組み合わせることができます。
反対に、お茶やコーヒーなどに含まれる成分は、条件によって非ヘム鉄の吸収を低下させることがあります。しかし、鉄不足が確認されていない人まで食事のたびに飲み物を厳密に管理する必要があるとは限りません。
栄養素の吸収率だけを最大化しようとすると、食事が複雑になり、続けにくくなります。「豆腐だけで済ませていた食事に野菜を加える」「パンだけの朝食に卵や果物を合わせる」といった小さな調整でも、食事全体のバランスを考えるきっかけになります。
必要量は人によって違う
鉄について考えるときに重要なのが、必要量には大きな個人差があることです。
特に月経がある人では、血液とともに鉄が失われるため、月経のない人とは必要量が異なります。また、月経量にも個人差があります。
妊娠中は母体だけでなく胎児や胎盤、血液量の増加などにも鉄が関わるため、通常とは必要量が変化します。ただし、妊娠中だからといって市販の鉄サプリメントを自己判断で追加すればよいとは限りません。妊婦健診の結果や食生活などを踏まえ、必要に応じて医師や管理栄養士などに相談するのが適切です。
成長期、激しい運動を行う人、出血が続いている人などでも状況が異なる場合があります。
つまり、「成人なら全員同じ量を取ればよい」という栄養素ではありません。
疲れやすさだけで鉄不足と決めない
鉄不足や鉄欠乏性貧血では、疲れやすさ、息切れ、動悸、めまいなどがみられることがあります。しかし、これらは鉄不足に特有の症状ではありません。
そのため、体調不良を感じたときに「鉄が足りないはず」と決めつけ、市販の鉄剤やサプリメントを飲み続けることは避けたいところです。
鉄の状態を評価する際には、血液検査などが使われます。単一の数値だけでなく、複数の検査結果や症状、出血の有無などを合わせて判断することがあります。
また、鉄不足が確認された場合でも、その背景に月経による出血があるのか、消化管からの出血があるのか、食事量が不足しているのかなどによって対応は変わります。食事で鉄を増やすだけでは十分でない場合もあります。
強い疲労、息切れ、動悸などが続く場合や、貧血を指摘された場合には、食品やサプリメントだけで解決しようとせず、医療機関で相談することが大切です。
鉄サプリメントは「念のため」で飲まない
鉄はサプリメントでも摂取できますが、食品から取る場合とは異なり、一度に多量の鉄を摂取しやすくなります。
鉄が不足していることが確認され、医師から鉄剤を処方される場合には治療として意味があります。一方、検査をしていない状態で「疲れているから」「女性だから」「運動しているから」といった理由だけで鉄を追加することが適切とは限りません。
鉄の過剰摂取では、吐き気や腹部症状などが起こることがあります。また、特定の病気がある人では鉄が体内にたまりやすい場合もあります。
持病がある人や服薬中の人は、鉄のサプリメントや市販薬を利用する前に医師や薬剤師へ確認したほうが安全です。処方された鉄剤を服用している場合も、食品やサプリメントを自己判断で大量に追加する必要はありません。
普段の食事では「鉄だけ」を追いかけない
鉄を意識すると、「鉄が何mg入っているか」ばかりに目が向くことがあります。しかし、私たちが食べているのは鉄そのものではなく食品です。
たとえば赤身の魚を食べれば、鉄だけでなくたんぱく質なども取れます。納豆なら鉄に加えてたんぱく質や食物繊維などを取ることができます。青菜も鉄だけを目的に食べる食品ではありません。
反対に、鉄の含有量が多い食品でも、そればかりを大量に食べれば食事全体が偏る可能性があります。
普段の食事では、主食、肉・魚・卵・大豆製品などの主菜、野菜などの副菜を大まかに組み合わせ、その中に鉄を含む食品が自然に入る形を考えると続けやすくなります。
たとえば「昼食が麺だけになりやすいなら卵や肉、野菜を追加する」「朝食に納豆や卵を取り入れる」といった方法です。毎食完璧にそろえる必要はなく、一日や数日の食事全体で調整しても構いません。
食事量そのものが少ない場合にも注意する
鉄不足を避けようとして鉄の多い食品だけを探しても、食事量そのものが極端に少なければ、鉄だけでなくさまざまな栄養素が不足する可能性があります。
減量中でも、主食や肉類などを一律に排除する必要はありません。短期間で体重を減らすために食事量を大幅に減らすと、鉄を含めた栄養素を取りにくくなることがあります。
また、食事や体重への強い不安があり、食べられる食品が極端に限られている場合は、単に「鉄を増やす」という問題ではないことがあります。摂食障害が疑われる場合には自己流で食事制限を強めず、適切な医療支援につなげることが重要です。
鉄を知ることは、食事全体を見る入口になる
鉄は健康維持に欠かせない栄養素ですが、「鉄の多い食品をたくさん食べれば健康になる」という単純なものではありません。
肉や魚、大豆製品、野菜など、さまざまな食品から鉄を取ることができます。吸収されやすさの違いを知っておくことも役立ちますが、細かな食べ合わせを完璧に管理するより、日々の食事に複数の食品を取り入れるほうが現実的です。
そして、鉄についてもっとも注意したいのは、症状だけで不足を決めつけないことです。体調不良や貧血の背景にはさまざまな原因があります。
まずは鉄を含む食品を知り、普段の食事に無理なく取り入れる。そのうえで、症状が続く場合や検査で異常を指摘された場合には、自己判断で大量の鉄を補うのではなく、医療機関で原因を確認する。この二つを分けて考えることが、鉄との無理のない付き合い方の入口になります。